明治36(1903)年5月に発行された『家庭雑誌』の第1巻第2号。
それに掲載されている堺利彦の「老人問題」というタイトルの評論?エッセイ?があります。
明治時代にすでに「老人問題」という言葉があったのです。
家庭は夫婦と子供というのが望ましい。もしも老人が同居するなら親というのではなく、「只老人としてこの家の家族となるべきである。」
『家庭生活』第1巻第2号より引用
長男が家を継ぐのが当たり前で、三世代同居が多かったであろう明治時代に、「核家族」を推奨している人がいたのです。
そして、さらに驚くことに、堺利彦はデンマークの「老人問題」を「良い例」として紹介しています。
デンマークでは別に掛金はさせずに、只六十歳以上になって、自活の道の無い者には二百四十フランの年金を興へる。保護を興へると云っても、決して貧民として取り扱ふのでは無くて、丁度休職の軍人か官吏かのように、云は國家に功労のあった元老として優待するのである。日本なども早くデンマークのように、結構な老人保護法を定めたいものである。
そして、今でいう「介護施設」についても言及しています。
養老院に収容させられる事は、決して恥辱では無くして寧ろ名誉である、國家の厄介になるのではなくして我が権利を行ふのである。
夫婦の住む所としての家庭を美しくする事は無論であるが、更に廣い意味の家庭、即ち養老院の如き者を(原文ママ)、我が日本においても早くこしらへて貰ひたいものである。
最後の文章で、この時点で日本には高齢者向け介護施設が存在していないことがわかります。
堺利彦はデンマークコペンハーゲンにある養老院を紹介し「院内は清潔で、家は美しき園の中に建てられて、其部屋々々は光線が十分で、冬は暖かく、夏は涼しく、質素ではあるが相応の装飾もある。」としています。
料理は「かって有名な旅館に居た料理人」によって、金のかからぬ旨い料理がだされているそう。
120年前のデンマーク、なんて進んでいたのだ!
そしてそれを紹介し、日本にも「介護施設」を作りたいと提案していた人が明治時代にすでにいたわけです。
介護先進国のデンマークは現在「世界一幸せな国」として知られています。
高齢化に伴う介護費増加の問題を「施設から在宅介護への転換」政策でうまく乗り切った結果です。